新製品開発成功のカギ “他部門と技術部門とのコーディネーション”

  フロント・エンド・ローディング体制を実施するうえで、他部門との係わりが多くなればなるほど、その調整に費やすエネルギーは増大します。新製品開発はいろいろな部門との連携で作られていくので、当然のことながら他部門、外注先を巻き込んで進むことになります。
 フロント・エンド・ローディング体制では、開発当初に研究・技術開発、設計、試作、生産、販売に至る一連のリスクを定量的に抽出することが特長です。ただ単にリスクを抽出するだけでなく、部門間共有のリスクというか課題というか、新製品開発に参加するエンジニア全員が自部門のリスクとして共有してもらうことが重要です。共有するという意味は、例えば、他部門のリスクであるから私には関係ないという姿勢であれば、他部門の工程遅延が自分に及ぼす影響を事前に察知して対処方法を考えることはしないでしょう。ほとんどの場合、問題が露呈してから対処を考えることが多いので、共有することによって早くからリスクの対処を考えることができるわけです。また、他部門がお互いに強い協力関係にあれば、積極的に果敢してくれるので開発現場も活気づき、市場に強い製品を世に送り出すことができるはずです。したがって、他部門あるいは技術部門とのコーディネーションが重要なポポイントになり、コーディネーションを支えるネゴシエーションスキルは、その要となります。
 ネゴシエーションは、
・ネゴシエーションは駆け引き、
・一方的な要求はネゴシエーションにならない
・相手が「なるほど」と思うものは何か、
・これでもかという根気が必要、
・時には居直りも必要、
などが上げられます。ネゴシエーションとはとの問いに対しての答えは、即座にリスクの比重を50%:50%にすることであると言い切れます。例えば、顧客側のリスクを10%として、受注側のリスクを90%としましょう。確かにお客様は絶対であるとの見解から見れば、リスクの比重が極端に崩れていたとしてもやり遂げなければならないことも事実ですが、どうでしょうか、この顧客のために「こうもしてあげよう、ああもしてあげよう」と創意工夫を生み出す気持ちが湧いてくるでしょうか。この問いに対しては、誰もが賛同しないでしょう。ましてや働き方改革が励行される中では、「やられた」という恨みを残し、当然役務の手を抜くこともあるかも知れません。この現象は、開発部門の中でも同様なことが起きるでしょう。 では、どのようにすれば良いのでしょうか。
 ネゴシエーションは、説得でなく納得してもらうことから始まると思います。納得してもらうという意味は、自ら気づいて修正してもらうことですが、相手に対してはそのようなことが、簡単に通じるわけがありません。一つの解決策は、こちら側と相手側が背負うリスクの共通点を探しだすことです。ここでネゴシエーションスキルが必要となります。ネゴシエーションスキルを上手に使うためには、相手に対して「なるほどな」というものを持っていなければ納得しないでしょう。開発エンジニアにとっての「なるほどな」は、長い経験からの知識、ノウ・ハウも重要でしょうが、その場で起きるリスクに真正面から向き合い、果敢に立ち向かう姿勢のように思います。この「なるほどな」と思わせる姿勢とリスクを平等に持っていくことが、難局を乗り越えるコツのように思います。

落合以臣

1952年10月(生) 東京都出身、英国ウェールズ大学大学院修了<br> 役職 株式会社ジョンクェルコンサルティング 代表取締役<br> 講師歴任 早稲田大学 社会科学総合学術院招聘講師<br> 顧問歴任 岩手県陸前高田市 環境浄化顧問、日本テトラポッド株式会社 技術顧問<br> <br> 1975年大手プラントメーカー千代田化工建設株式会社に入社。海外および国内の大型エネルギープラントの設計・建設に従事。1990年退社、1990年6月株式会社ジョンクェルコンサルティングを設立、現在に至る。現在では、建設案件に対応した競争入札の急所から試運転までの効率化を目指したプロジェクトマネジメントの導入、製品開発の可視化・定量化の指導、トレンド予測による製品テーマの創造、環境技術に関する開発などを実践している。<br> <br> 所属学会<br> 日本経営システム学会会員<br> 米国リスクマネジメント協会会員