新製品開発の可視化・定量的リスク評価 ”リスクの醸成過程”
新製品開発遂行時に繰り返し起こる問題として、工程が押し詰まった段階でリスクが露呈します。もちろん、開発スタート時点では、気も心も新たに「今回の開発は、前回のようなことにならないように、見切り発車は止めて回りの人々の意見を取り入れ、効率よく進めるようにしたい」と誰もが思うはずです。ところが、工程が進むにつれて実施すべきことが増え、しかも前回の開発でのクレーム処理なども重なり、また同じような時期になって同じような場面に遭遇することになるわけです。この場面に来て考えることは、何で毎回同じようなことを繰り返すのだろうか、前製品のクレーム処理がなければ、運が悪いのか、など大なり小なり胸に抱くことになるでしょう。
こうした苦い経験を持ちながら、なぜ同様な過ちを繰り返さないような開発を計画することができないのだろうかと素朴な疑問を持つと思います。よく企業の上役の方が、「うちの社員は不思議なんだよね。工程が押し詰まった段階で問題が発生するけれど、何とか間に合わせてしまう力を持っているんだから」と言われるのを耳にします。こういう上役ほど、問題の本筋を見抜いていないことが多いと言えます。その答えは、残されたスケジュールを完遂するために、人、物、金を大量に投入してやり終えてしまうことにあるからである。確かに、人、物、金を大量に投入してやり終えはするが、問題の根を絶ったわけではなく、開発当初に計画したQCDを確保できたうえでの“やり終えた”のかどうかです。ほとんどの場合、QCDのうち工程、つまりDは厳守します、Cは増加しQは低下することになります。言い換えますと、QとCを犠牲にしてDを守るのです。したがって、開発計画を作成するときの研究開発、製品開発のQCD確保という当初の目的は、工程が押し詰まった段階では“顧客に迷惑をかけるわけにはいかない”という大義名分から“やり終えなければならない”という言葉に入れ替わり、計画通りの工程か、少し遅れ気味の工程で研究開発、製品開発を終了することになります。
このような状況で終了した製品開発では技術そのものの完成度が低く、他への利用にも貢献度が少ない、または世に送り出した製品にはクレームが多くなることがあります。なぜという疑問に対して長々と述べてきましたが、工程が押し詰まった段階で問題が露呈し、やり終えることが教訓となるが、次のプロジェクトでは使えないという理由は、開発当初に作成する計画書には工程が押し詰まってから露呈するリスクを回避するために必要となる人、物、金を大量に投入することを考えないからです。本来の製品開発では工程が押し詰まった段階でリスクが発生しないような計画を作成することであり、最初から人、物、金を大量に投入する計画を作成するものではないはずです。
もう少し解説しますと、本質的な問題は開発計画を作成する段階でゴールを見据えた開発全体の定性ではなく定量的なリスク評価を行わないことに起因します。市場にも課題が残ります。工程を厳守しなければならないという認識を持っているものの、多少上市が遅れても投資回収期間を延長することによって、ある程度緩和できるという悪しき習慣を引きずっていることも影響します。