新製品・新事業テーマの創出 ”念には知恵を入れた新製品開発”
製品寿命の短命化
少し大上段に構えて、経済学的な見方から製品価値を分析しますと、労働価値説からの見解と効用価値説からの見解に分かれるといわれています。労働価値説の見方は、製品価値は製品そのものの中に含まれ、社会的必要労働の量によって規定されると定義されています。この考え方は、ウィキペディアによれば、イギリスの医師でもあり経済学者のウィリアム・ペティに始まり、アダム・スミス、リカードにより体系づけられ、最終的にはマルクスによって集大成されたといわれています。つまり、製品価値を生む源泉は、製品そのものが持つ価値ではなく、その物を生産し、運搬してきた労働に対して対価を支払っているという考え方なので、どちかと言えば古典的な経済理論といえます。一方、効用価値説の見方は、製品の価値は効用(満足度)の大きさで決まるとした理論で、ある製品を消費したとき、それによって得られる効用(満足度)が価値であると定義しています。この効用(満足度)の評価は、同じ製品を使ったときでも人によって満足度は当然違うので、その製品の値段に対して高いと思う人もいれば安いと思う人もいるはずです。つまり、個人の主観に相当な部分委ねられていますので、一方では主観価値説とも呼ばれています。
こうした2つの価値基準から製品寿命を探ってみますと、1980年頃までは便利さを追求しながら、製品を作る過程で起きる品質の課題、安全性などを重要視した開発が行われていたと思われます。また、その過程でTQC活動が盛んになった背景を容易に理解することができます。しかしながら、筆者の開発現場での経験を通して、現在の製品開発の様子を見ますと、効用(満足度)を優先するあまり、マスコミベースに乗せられた表面的な製品を作ることに専念していると言わざるを得ない状況にあります。たとえば、無料の写真共有アプリケーションソフトウェアをつかって投稿できるインスタグラム(Instagram)は、確定的なことはいえませんが、現時点でのはやりが写し出され、それが瞬く間に世界中に広がり、あたかもその写真集が流行しているような状況を作り出すという一種の虚構の世界を演出しているといえます。この虚構の世界に製品企画に携わる人々が群がり、これがテーマだテーマだと虚構の世界を盛り上げているにすぎないのですが、当人はまったくそれに気づいていないといえます。ある意味では、製品寿命の短命化は、自身が作り出しているということに気づいていないといえるでしょう。
念には知恵を入れた新製品開発
こうしたことに鑑みますと、製品寿命を短命化へ向かわせるのではなく、長命化というより中命化へ導く方法は、5年先、10年先をニュートラルな視点で見る目を養うことが必要ではないかと思われます。なぜならば、製品開発における社会環境は、熾烈な価格及び販売競争の中で、年々技術・製品価値が失われようとしており、製品開発の要を担っているR&D及び開発現場では、過酷な開発環境を強いられている状況だからです。
これを打破するためには、ニュートラルな視点で近未来を見据えたうえで、R&Dの内容を決めることが重要で、R&Dは、新製品・新製造方法の開発、改良のための研究、製造や販売へ技術的を提供することができるはずです。現代のように混沌としたときほど、「念には知恵を入れる」開発が必要と思われます。