ジョンクェルコンサルティング [Jonquil Consulting Inc.] ジョンクェルコンサルティング [Jonquil Consulting Inc.]

新製品・新事業テーマの創出 ”新製品開発におけるフロント・エンド・ローディングの再考”

企業の四半期決算と新製品開発

 新型コロナウイルスの影響による世界経済の委縮化とともに、新製品開発の現場も大きな変貌を遂げようとしていますし、変貌しなければ生き残ることができないとも言えます。それは、満たされた社会環境の中で、意外性を求めた製品を次々と生み出してきた時代は、すでに過ぎ去ったからです。
 では、その変貌を遂げるためには、どのようなことが問題となるのでしょうか。 それは、企業自身の経営構造に起因すると思われます。多くの企業は四半期決算を励行しているために、3ヶ月ごとに企業が保有している総資産が、利益獲得のためにどれだけ有効活用されているかを表す財務指標であるROA(Return on assets)及びROE(Return on equity)を株主に公表する義務を負わされています。つまり、僅か3ヶ月の間に株主資本を使ってどれだけの利益を確保できたのかを見る、いわば可視化された数値で企業の収益効率を判定するものです。したがって、ROA、ROEともに高いものが株主にとって魅力的と評価されるわけです。しかしながら、供給過多に近い状況の中で顧客を魅了するような製品つくり、しかも大きな利益を上げるという神業的な仕組みを形成することを、今後も続けて行くことができるでしょうか。たとえば、スマートフォンに代表される製品は、手のひらのスペースの中に、大容量データのデータベース化、それらの送受信、各種アプリの搭載、世界中の情報の往来など、日に日に技術の進歩が要求されています。特に、それらの基本となっていますIT部品は薄氷を踏む思いの開発が進められています。過去は、ひとつひとつの性能がひとつの部品との一対一で構成されていましたが、現代のようにダウンサイジングと極限を追及する性能を強いられる状況下では、ひとつの部品に幾つもの性能が覆いかぶさるような開発となっています。こうした開発状況及び先ほども述べました四半期ごとの米国流決算への踏襲は、今後も続くと考えられます。

意識の壁

 こうした今までにない厳しい環境下での製品開発を進めるためには、単なるフロント・エンド・ローディング体制をとるだけでは製品価値を高め企業自身の持つ目標を達成することができにくいと言ってもいいかもしれません。また、こうした過酷な状況でなくても人間は自身の意思決定プロセスに意識の壁(bounded awareness)を作るとLovallo、Kahneman教授らは説いていました。意識の壁が生まれると人間は関連性が高く、簡単に入手し認知できる情報であろうと、それを見たり、使ったり、伝えたりすることが難しくなり、その場の状況に逆らうことなく出されたものを受け入れてしまう。また、ほとんどの人が意識の壁が生まれる仕組みに気づかないことが多いとも説いています。
 こうした企業の宿命とも言われます短期的なスケジュールと製品価値の創造及び開発者の意識的な壁を乗り越えて迅速な意思決定を促すためには、新製品開発のフロント・エンド・ローディングを連動経営として取込、さらに高度化した新製品開発におけるフロント・エンド・ローディングの実践が重要になると思います。

新製品開発におけるフロント・エンド・ローディングの再考

 今までに提唱してきました新製品開発の フロント・エンド・ローディング は、開発当初に開発の難易度、それらに関連したリスクを抽出して、その回避対応策を勘案することを強調してきました。しかしながら、新型コロナウイルス が、新製品開発に与える影響の大きさを鑑みますと、この方法では市場テーマを的確に把握していないために、市場での優位性確保が難しいと言えます。したがって、新製品開発のフロント・エンド・ローディングの再考では、市場優位を確保するための技術のシナジー効果を強く推し進めることを改めて言及したいと思います。

落合以臣

1952年10月(生) 東京都出身、英国ウェールズ大学大学院修了
役職 株式会社ジョンクェルコンサルティング 代表取締役
講師歴任 早稲田大学 社会科学総合学術院招聘講師
顧問歴任 岩手県陸前高田市 環境浄化顧問、日本テトラポッド株式会社 技術顧問

1975年大手プラントメーカー千代田化工建設株式会社に入社。海外および国内の大型エネルギープラントの設計・建設に従事。1990年退社、1990年6月株式会社ジョンクェルコンサルティングを設立、現在に至る。現在では、建設案件に対応した競争入札の急所から試運転までの効率化を目指したプロジェクトマネジメントの導入、製品開発の可視化・定量化の指導、トレンド予測による製品テーマの創造、環境技術に関する開発などを実践している。

所属学会
日本経営システム学会会員
米国リスクマネジメント協会会員

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