プロジェクトマネジメントの急所 ”モティベーションの高揚とプロジェクトの成功”

プロジェクトマネジメントの基本

 米国でマンハッタン計画を効率よく実施するために開発されたプロジェクトマネジメント手法は、早いもので60数年の歳月が経過しています。もちろん、遠い源流を遡ればイギリス人ヘンリーダイアーによって、1886年イギリスグラスゴー工科大学にはじめてエンジニリング学科が発足したのがきっかけとも言われています。現在では、いろいろな業種に応用され、プロジェクトマネジメント手法の有効性も検証されていることは周知の通りです。その当時、職人がエンジニアになる途(みち)として3つの条件が付記されています。第一の条件は職人としての技術的基盤を持っていること、第二の条件は学問の成果を取り入れるという科学的基礎を持っていること、第三の条件は生産工程に従事しつつ自己の発明を工業化するという工業的基盤を持っていることなどです。プロジェクトマネジメントは、この3つの内容を基本に置いていると思います。
 プロジェクトマネジメントの基本は、在来組織を横断して一時的に組織化された人材、資源の統合によって、一定の時間的制限の中で、日程、費用、技術上の明確に定められた目標の達成を目指した計画について、その組織活動を担当するのがプロジェクト組織(プロジェクト・チームなど)であり、その諸活動を合理的に計画・実施・統制していく管理活動であると言えます。したがって、目的を達成するために効率的にプロジェクトを運用していかなければなりません。運用するためには、管理ツールとしてのプロジェクト三大要素である工程管理、原価管理、品質管理を徹底すれば、プロジェクトは成功するはずです。ところが、プロジェクトを支援する管理ツールを利用し、コントロール、コーディネートすれば、プロジェクトを効率よく運用することができるでしょうか。
 例えば、海外で仕事をする場合の通関をみても、机上の理論通りに実施しても思うように通関することはできません。現地では、リスクを先送りできないために、現状に合わせた応急処置を講じてリスクを回避してきました。品質管理にしてもそうです。機器製作の大半を海外ベンダーに委託してきました。契約書通りに実施してもらえれば、何の問題も起こらないはずです。ところが、発注者側の仕様書作成の遅れ、製作側の能力の問題、国民性の違いなどが起因となって、なかなか思うように進まないしコストも増大する一方です。

モティベーションの高揚とプロジェクトの成功

 こうした状況を乗り越えていくためには、確かに管理手法も重要な要素ではありますが、ヘンリーダイアーが唱えた3つの条件を考えますと、プロジェクトは人に起因することが大きいことがわかります。したがって、プロジェクトを成功に導くためには、プロジェクトに参加するひとびと全員のモティベーションを高めることが重要な要素となるはずです。このモティベーションを高めるためには、目的意識をしっかり見据えることが基本となりますが、やはり、失敗を重ねたうえでの成功体験が、その人を支える基本となるのではないでしょうか。
 よく、一般的には成功が僅かで失敗の方が多いと言われます。成功体験が少ないために、その体験の醍醐味を長い間維持することができないのではとも言われています。また、人間は失敗を重ねるにつれて少ない成功体験の恐怖心から、成功体験をひとつひとつ消しゴムで消してゆくそうです。
 優れたプロジェクトマネジャーは、失敗に対する恐怖心を乗り越えるために、僅かな成功体験のともし火を絶やすことのないように、自分自身に厳格な規律を強いてきたのでしょう。また、人間は応用力が豊富であるといわれますが、実際には窮地に直面しますと、大きく視野を広げることができにくく、近視眼的に物事を見る傾向にあります。中には、思考能力が停滞してパニックに陥る人もいます。
 このようなことに鑑みますと、プロジェクトマネジメントは仕事と人間を結びつけるコーディネーションを効率よく行う手法で、それがプロジェクトを成功に導く「コツ」であると言えるでしょう。しかしながら、何か言葉では表現できないツールと経験の融合があってはじめてプロジェクトを成功に導くことになるのではないかと思います。

落合以臣

1952年10月(生) 東京都出身、英国ウェールズ大学大学院修了<br> 役職 株式会社ジョンクェルコンサルティング 代表取締役<br> 講師歴任 早稲田大学 社会科学総合学術院招聘講師<br> 顧問歴任 岩手県陸前高田市 環境浄化顧問、日本テトラポッド株式会社 技術顧問<br> <br> 1975年大手プラントメーカー千代田化工建設株式会社に入社。海外および国内の大型エネルギープラントの設計・建設に従事。1990年退社、1990年6月株式会社ジョンクェルコンサルティングを設立、現在に至る。現在では、建設案件に対応した競争入札の急所から試運転までの効率化を目指したプロジェクトマネジメントの導入、製品開発の可視化・定量化の指導、トレンド予測による製品テーマの創造、環境技術に関する開発などを実践している。<br> <br> 所属学会<br> 日本経営システム学会会員<br> 米国リスクマネジメント協会会員