プロジェクトマネジメントの急所 “プロジェクトを可視化するWBSとその応用”
プロジェクトを可視化するWBS
プロジェクトマネジメントの中で、役務を可視化する方法としてWBS(Work Breakdown Structure)があります。WBSは5W2Hから構成され極めて単純であるとはいえ、実際には作成するために多大な労力を必要としますが、一度全てのリソースのインプットを完了させれば、予算管理、スケジュール管理、リソース管理、文書管理、変更管理、技術管理、進捗度管理、状況報告などWBSを通して把握することができます。
もう少し、WBSがどのような役目を果たすのか、工程短縮と定量的リスク評価との関係からみたいと思います。下図のように、①と②の線があると仮定します。②の線は、①の線があるので短いことが判ります。
その短い部分を短縮したと仮定します。もし、もとになる①の線がなかったらどうでしょう。②の線しかないので、もとの①の線がどの程度長いのかわかりません。つまり、①の線があってはじめて②の線の短縮の大きさを掴むことができます。この短縮の大きさを定量的リスクと置き換えますと、短縮するための条件、その条件に対してのリスク評価、例えば、代替案、代替品を使う場合には、質の問題、コストの問題をクリアーしなければなりません。では、代替品、代替案などを使用する場合のリスク抽出、回避方法、実施後の評価方法、評価などの内容はどこに書かれていなければいけないのでしょうか。それは、PERT図、ガントチャート図でもなくWBSです。このように、②の線のような最初から与えられた工程で、プロジェクトの構築を行なおうとしますと、現有勢力でどのくらい対処できる・できないなどのリスクを定量的に把握することができないので、リスクの回避方法も「だろう」でスタートするために、後になって「何でいつも同じようなところでプロジェクトが暗礁に乗り上げるのだろうか」ということになってしまいます。
WBSの応用
このようなことに鑑みますと、WBSの重要さがわかるはずです。もう少し具体例を追ってみましょう。少し前のことですが、かつての同僚からの誘いで、ある醤油会社で新しい工場の建設案件を企画から携わったことがあります。その醤油会社の社長はMBAを取得しており、米国に長く滞在していたこともあって、かなり可視化という言葉にこだわっていました。顧客の要望は、醤油を作る工場だけでなく、世界とネットワークを結び顧客の声を反映して、醤油の味を顧客に合わせてカスタマイズしながら販売したいとのことでした。この命題を達成するために、販売価格を上げないで生産ラインの組み換えをスムーズにできるようなシステムを構築しなければなりません。
まず考えたことは、顧客がこの事業に耐えることができるのか、他の企業は市場調査、販売ルートなどを勘案してプレゼンテーションを行ったようですが、筆者らの戦略は希望とする社長の案を具現化できるのかどうか、消費者からの注文、生産、販売に至るプロセスのWBSを作成しました。いわば先ほどの図にあるような①の線を描いたわけです。この①の線を基本として、顧客である醤油会社の現有資源を投入したWBSと工程を作成したところ、40%の資源不足(人、物、金)になることがわかりました。この結果を踏まえて第一回目の筆者らのプレゼンテーションは、実現は難しいという最も顧客が嫌うネガティブな説明となりました。その場での社長のご意見は、「極めて遺憾な見解であり、具体化に向けて計画するのが請負う会社の仕事ではないか」と評されました。ところが、数週間経た第二回目のミーティングには、筆者らしか呼ばれなかったことが後で判明しました。その後、具体化に向けて第一回目に提案した40%の資源不足を20%に歩み寄れる計画書を提出し、実際に建設を行い完工いたしました。
顧客との親交が深まるにつれ、他社のプレゼンテーションの内容を知ることができました。プレゼンテーション後は、他社の方の評判がよかったそうですが、時間が経つにつれて内容を吟味していくうちに、砂上の楼閣であることが社長ご自身気づいたそうです。このように、WBSはプロジェクトを可視化するひとつの道具ではありますが、いろいろなことに応用して使うことができます。